第三回まではインパルス応答の採取について書いてきましたが、今回はそれとはおもむきをかえて、
高サンプリングレートでの編集について書いてみます。
オーディオ編集などをする時の編集データのサンプリングレートなのですが、
通常僕はCDに焼くことを念頭にしているため、44.1KHzとすることが多い、、というかホトンドです。
レコーディングも44.1KHzでやります。
ちまたのレコーディング関係の本とかサイトですと、高レートで録音すればするほど、ガンガン音が良くなる
というような事がよく書いてあるものですが、
僕自身ちょっと聞いてみてまあまあハイファイ感があればいいやと思っているため、
録音時のサンプリングレートにはあまりこだわらず、データ量が少なくて加工処理がサクサク進むし、
リサンプリングの必要もない、44.1KHzでやってしまってます。
しかし、そんな僕にもやっぱコレだけは、ハイレートじゃないとやってられん!という幾つかの
加工手段があります。今回はそのこれだけは、と思っているものをピックアップして解説したいと思います。
1. ディストーション
何を差し置いても先ずはこのディストーションでしょう。
元の音には無かった音の成分(周波数)が生まれるような編集を非線形処理と言ったりしますが、
ディストーションはその親玉というか、波形を元の形から変えて倍音を作り出し、
独特の分厚さとノイジーさを加えます。
基本的にはある音量を別の音量で置き換えるという処理なのですが、
時間を掛けてゆっくり変化させるのではなく、
波形の前後に関係なくいきなり音量が変わるため、周波数の構成をかなり乱暴に変えることになります。
整数次倍音はおろか、非整数次倍音や、基音よりも低い成分も発生します。これがノイジーさと、厚みを生み出します。
ディストーションの目的は殆どの場合、音を意図的に汚して厚みを増すことですから、汚ければ汚いほど良いように思えるのですが、
汚いなりに綺麗(?)な音が欲しい時もあります。
あまりにもノイズ成分が強すぎると、厚みを通り越して、不快な音になりますし、
音楽用途に使う場合、和声感を乱す原因にもなります。
ところが一般にデジタルの歪みというのは、たとえ弱めに歪めたとしても、
耳障りな濁り成分が増しやすい傾向にあります。
これは一体どうしてかと言いますと、デジタルの場合サンプリングレートの2分の1の周波数までしか、
正確に表現することが出来ず、それ以上の周波数を扱おうとすると、低い周波数にノイズをもたらしてしまうからです。
ディストーションの処理によって理論上発生したサンプリングレートの2分の1以上の高次倍音は、
全て、それ以下の周波数のノイズに置き換わってしまいます。これをエイリアスといいます。
エイリアスは元の音の成分とは倍音関係にないため、少しのノイズでも濁りが強く感じられてしまうのです。
そこで!そこでハイレート処理が力を発揮することになります。
再生したい周波数よりもずっと高い周波数でディストーション処理を行えば、処理の結果発生するエイリアスは再生したい周波数にまで影響しないか、
僅かな影響に留まるわけです。
エイリアスの影響が小さくなれば、相対的に元の音と倍音関係にある成分が大きくなり、より音楽的な歪みとなるわけです。
サンプリングレートは大体どの位を目安にしたらいいのかというと、僕の感覚では、4オクターブ上(16倍)くらいのハイレートでディストーション処理をおこなえば、随分すっきりした歪みが堪能できると思います。
CDのフォーマットは44.1Khzで、巷の波形編集ソフトは大体192KHzくらいまでの対応していますが、これだと約2オクターブくらいしかバッファがないのですが、リサンプリングはせずに、サンプリングレートの扱いを変える方法(44.1Khzのデータを10.025KHzとして扱う)で、一機に4オクターブ分変換させることもできます。(例えば、44.1KHzのデータを11.025KHzとして扱い、それを176.4KHz{44.1KHz×4}にリサンプリングすれば4オクターブの周波数マージンを得ることができます。ディストーションをかけた後は、逆に11.025KHzにリサンプリングした後、データの扱いを44.1KHzにします。)
では、この辺で実際にやってみた結果を示します。(偉そ..) 最初に加工前の音、次に44.1KHzのまま加工した音、最後に4オクターブのマージンをとって加工した音が、連続で入ってます。
聞く
2. 波形生成
波形編集ソフトでは、任意の波形を生成する機能を持っているものが多いかと思います。
サイン波やら、矩形波、やらノコギリ波やらのシンセサイザーではお馴染みの波形を、
任意のピッチで再生したり、ソフトによってはピッチが変化する音を生成できるものもありましょう。
ところが、ノコギリ波などの倍音を多く含んだ音で、高い周波数の音を生成すると、ピッチとは関係ない
妙な濁り成分が混ざることがありませんか?
そうです。これも例のエイリアスなのです。なので、波形生成するときも、倍音が良く出るものは、ハイレートで生成して、
リサンプリングによって、再生環境に合わせるという事をした方が、綺麗なサウンドを得ることが可能です。
3. コムフィルタ
コムフィルタとはディレイのことです。
別にディレイなんてサンプリングレートは関係ないじゃん??と思われる方もいらっしゃるかも知れません。。
たしかにヤマビコ型のエコーを加えるという通常のディレイの使い方でしたら、何もハイレートで処理する必要はないでしょう。
しかし、フィードバックの大きなショートディレイを使って、音程感を作り出すような加工をしたい場合、特にディレイタイムが短い
高い音程を作りたい場合は、話が違ってきます。
なぜなら、ディレイを使って音程を作る場合、サンプリングレートを整数で割った周波数の音程しか作れないからです。
それもそうです。ディレイは単純に、あるサンプル数だけ波形を遅らせて、元の波形に重ね、重ねたものをさらに遅らせて重ねて、、
という方法で、音程感を生み出しているからに過ぎません。サンプルとサンプルの間の音を、予測して作り出す。。などという事を
やってくれる分けではありません。作りたい音程と、実際の音程のズレ(正確には作れる音程の飛び飛び具合)は、音程(周波数)が上がれば上がるほど大きくなります。ギターで言えば、全てのフレットの間隔が一定になっているという感じです。(普通は高い音ほどフレットの間隔が短いです)
なので、コムフィルタを使う場合も、サンプリングレートを上げて目的のピッチが得られるようにしています。
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