第二回 インパルス応答の採取?!SOの2
(2003.6.22)

さて、実際にスピーカーや部屋のインパルス応答を取得する方法を説明します。

その前にここで紹介するテクニックでは様々な毒音波(機材や耳に負担をかける音) を使用します。ここで紹介するテクニックや波形は全てご自身の責任のにおいてご使 用下さい。万一、機材やご身体に障害をきたしても私は如何なる責も負いかねるもの とします。

インパルスを入力した結果戻ってくる波形がインパルス応答なのですから、インパル スを目的の環境で再生して、それを録音すれば理屈の上ではインパルス応答は取得で きるはずです。
しかし実際のところそれでは中々上手くいかないのです。 その原因の1つに「ノイズ」があります。蛍光灯の音、冷蔵庫の音、パソコンの音、 自動車の音、飛行機の音、蛙飛び込む水の音、と録音環境には様々なノイズがあるも のです。
仮に防音が完璧なブースで録音したとしても、アンプが発生するノイズがあるので、 やはりノイズの影響を免れることはできません。
もうひとつの問題に「歪み」があります。スピーカーやアンプ、あるいはマイクは歪 んでいないように聞こえても、やはり僅かに歪んでいるものです。とくに1サンプル だけに全周波数のエネルギーが集中するインパルスでは、スピーカーやアンプの能力 を十分に発揮させることは適わないのです。
そこで、インパルス応答の取得にしばしば使われるテクニックを2つ紹介します。さ らにちょっと亜流のテクニックも紹介します。

テクニック1 同期加算
これは全く同じ音をどんどん重ねるというテクニックです。
普通の楽器などの音で全く同じ音を作るのはまず不可能と言えます。プロの演奏家が 全く同じように弾いても、やはり僅かに音がずれているので、音を重ねていることが 分かりますよね。
しかしデジタルオーディオだと事情が違います。デジタルオーディオでは、全く同じ 音を何回でも再生可能です。そのまったく同じ音を何回も重ねて録音したらどうなる でしょうか、、
それは、
音量が増えます。それも全く同じに重ねた音が差別的に大きくなります。
ノイズは時間を経た音に関連が無いので、確率的にしか音量は増えません。しかし全 く同じ音を重ねると必ず音量が大きくなるのです。全く同じ音を2つ重ねた場合は、 SN比はおよそ3dB向上します。倍の4つだと6dB、さらに倍の8つだと9dB向上します。
このテクニックを使う為には、録音と再生とでクロックの同期がとれた同時録再生が できるオーディオインターフェイスを使う必要があります。そうでないと、どのタイ ミングで重ねたら全く同じ音になるかが分からないからです。クロックの同期が取れ ている場合は、例えば10,000サンプルに1回とか決めてループ再生したものを録音し て、それを10000サンプルごとにミックスしていけば同期加算を実現できるのです。

しかし、同期加算だけではまだ十分な結果を得るのは難しいものです。256回重ね たら24dBもSN比が改善します。しかし、もう少し欲を出してあと3dB改善す るためには512回も重ねる必要があるのです。これはロールプレーイングゲームの 経験値稼ぎのようなもので、最初はさくさくと改善するのに、ある程度まで行くと ちょっとしか改善しなくなってしまうのです。
また同期加算では「歪み」の問題は解決しません。そんなわけで、次のテクニックが 役に立つ分けです。

テクニック2 TSP(Time Streched Pulse(時間引き延ばしパルス))
TSPと呼ばれる波形は、周波数特性はフラットなのですが、位相が周波数毎に少し ずつずれているため、ある程度の時間継続する波形です。実際にその音を聞いてみる と「ピューンッ」というように、スイープして聞こえる波形です。(ちなみにかなり 耳に悪そうな音です。)
TSPはそれ自体を時間軸上で逆転した波形(要するにリバース再生した波形、逆T SPと呼びます。)によって畳み込みを行うことで、インパルスになる。という便利 な性質があります。(というかそういうように設計された波形です。)
TSPを使って再生/録音し、その結果を逆TSPによって畳み込むことで、結果的 にインパルス応答を得ることが可能です。
1サンプルしかなかったインパルスのエネルギーを時間軸上に分散して、 後のフィルタ処理によって、また1サンプルに集めるという感じです。 アンプやスピーカーの性能を十分に発揮させることが可能です。

最後にちょっと亜流のテクニックを紹介します。

テクニック3 打撃音&破裂音
自然界には、インパルスに似通った(?)波形があります。アタックが非常に鋭くて、 すぐに消えてしまう音。。。
そう、それは打撃音&破裂音です。
ピストルの音とか、風船の割れる音とかをインパルスの代わりに 使っちゃおうという何ともアバウトなテクニックです。
メリットは、打撃破裂音(ここだけの言葉です。)というのは、エネルギーが非常に大きいということです。
スピーカーから出てくる音はうるさいように聞こえますが、それはほとんどの音楽ソースが コンプ処理などを使って音量を均一化しているためです。打撃破裂音の非常に鋭いアタック部分は、 たいていのアンプやスピーカーでは十分に出力できません。
部屋の残響などをサンプリングしたい時などは、スピーカを使ってやる手もありますが、 打撃破裂音を使って「エィヤー」とやってしまう方法もあるということです。
デメリットは、実際こうした音は周波数特性に癖があることです。(それはそうです。) なので、後のフィルタ処理によって周波数特性の癖を打ち消すなどの処理が必要なことが多くなります。 この辺の専門的な話は僕の方もあまりよく分からないので、また今度分かった時に書きます。(爆)

ここまで読んでいただいて「成るほど方法論は分かったよ。でも実際にどうやったらできるの?」
というお声もあろうかと存じ上げ候。そこで、次のコラムでは、僕が使っているCool Edit Pro2.0を使って パソコン用のちゃっちぃ(汗)スピーカーのインパルス応答を取得する方法を紹介したいと思います。 ここで紹介する方法は、Cool Edit Pro2.0に関わらず、畳み込みに対応している波形編集ソフトでしたら 出来るはずですので、皆様ご自身で使っていらっしゃるソフトに読み替えて読んでやってください。

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